症状別トピック
急激な視力低下(急に見えにくい)
急激な視力低下とは、数分〜数日以内に起きた視力低下を指します。その多くは、外からの光が網膜に届かなくなるような目の中の急激な濁りや、網膜損傷、視神経障害、視神経から脳に信号を伝える経路障害が原因です。
角膜の傷や感染症が、角膜中央(物を見る瞳孔部分)に及んでしまうと、角膜における光の屈折がうまくいかなくなり、急激な視力低下の原因となります。こういった場合、何かきっかけとなる出来事(外傷、アーク光による電気性眼炎、コンタクトレンズ障害など)があることがほとんどです。角膜は敏感な組織であり、強い痛みを伴うことも多く、すぐに受診していただける事が多いですが、症状が遷延化してしまうと視力が戻らなくなる場合もあり、しっかりとした早期治療が大切です。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病がきっかけとなる硝子体出血や血管閉塞症(網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症)なども、急激な視力低下を引き起こします。中でも網膜動脈閉塞症は、急激な網膜の血流障害を引き起こす原因となり一刻を争う病態です。硝子体出血は自然経過や内服薬のみで出血の消退を待つ場合もありますが、中には網膜剥離といった緊急性の高い疾患が出血の中に隠れている場合もあり、目の中の状況を早期に判断して治療方針を検討していく必要があります。
急性緑内障発作や視神経炎も急激な視力低下を引き起こす疾患です。これらは耐え難い強い痛みを伴う場合が多く、視神経に急激な負担がかかってしまう状況のため、眼科疾患の中で緊急性の高い疾患の1つです。
数年前から徐々にという経過ではなく、朝から急に見えなくなったなど、突然の視力低下を自覚した場合には、緊急性の高い疾患が隠れている事があります。速やかに眼科を受診し、検査を受けていただく必要があります。
考えられる症状
角膜の傷や感染(角膜感染症)
急性緑内障発作
血管閉塞症(網膜静脈閉塞症)
網膜動脈閉塞症
黄斑円孔
網膜剥離
硝子体出血、視神経症など
緩徐な視力低下(だんだん見えにくくなる)
急激な視力低下ではなく、長い時間をかけて徐々に視力が下がっていく原因として最も多いのは白内障です。白内障は手術をしないと治せませんが、ほとんどの場合で緊急性はなく、見えにくさなどの自覚症状と相談しながら、適切な手術時期を相談していくことがQOL向上に繋がります。
緑内障による視野障害や、加齢黄斑変性や黄斑上膜などで生じる歪みが、だんだんと悪化することで視力低下の原因となる場合があります。左右の目で大きく見え方が異なる場合や、歪みなどが気になる場合には注意が必要です。
糖尿病や膠原病などの全身疾患がある方で見えにくさが生じてきた場合、加齢による白内障だけでなく、糖尿病網膜症やぶどう膜炎などが視力低下の原因となることがあります。内科通院だけではなく、眼科への通院も怠らないようにしていただくことが大切です。
緊急性が高い疾患の1つである網膜剥離も、孔の位置や硝子体の性質によっては、剥離の進行スピードが非常に遅いことがあり、自覚する視力低下や視野障害を生じるまでに時間を要する場合があります。飛蚊症や光視症などを自覚した際や、症状の増悪を感じた際には、そのまま放置してしまうのではなく、早めに眼科を受診するようにしてください。
考えられる症状
霞んで見える(霧視)
目がかすんでしまうことを(霧視)と呼びます。かすみの原因は様々ですが、症状が急に生じたものであるかどうか、時間による見え方の差があるかどうか、かすみの度合いはどの程度か、などによって鑑別していくことが大切です。
近視や遠視などの屈折異常や、老眼や眼精疲労といった調節異常が関係している場合には、適切な度数の眼鏡作成や、ピント調節をしている筋肉の緊張改善を促すことで見え方の向上を期待できます。また、白内障が進行している場合には白内障手術の相談が必要です。
かすみの度合いが比較的弱く、時間による症状の変化や、まばたきによる改善を認める場合には、ドライアイが原因の可能性があります。点眼治療を行うことで涙の質と自覚症状を少しずつ改善していくことが大切です。
症状が急に生じたことに加えて、かすみの度合いが強く、痛みや充血を伴う場合には、ぶどう膜炎、急性緑内障発作、網膜疾患、視神経炎など、緊急性が高いものから原因を疑っていく必要があります。
考えられる症状
目が赤い(充血、結膜下出血)
目が赤くなる病態として充血と出血があります。充血は炎症などが原因となり血管が拡張している状態で、結膜充血と毛様充血と呼ばれる所見に分類されます。それに対して出血は、目の表面にある血管が、擦った際や血圧が上がったことなどをきっかけに、血管が切れて破綻してしまった状態です。
白目の周辺部が赤くなる結膜充血では、細菌性結膜炎やウイルス性結膜炎といった感染性結膜炎や、アレルギー性結膜炎が主な原因として挙げられます。
角膜(黒目)の周りに強く見られる青紫色を帯びた充血は、毛様充血と呼ばれます。毛様充血が見られた際には、ぶどう膜炎や急性緑内障発作など、比較的重篤な病態が隠れていることが多く注意が必要です。
結膜下出血(白目の表面にあたる部分を結膜と呼びます)は、目の表面にある細い血管が切れてしまった状態です。基本的に痛みや痒みなどの自覚症状はないことが多く、他の方に指摘されて初めて気が付く方も多いです。結膜下出血は目を擦ってしまった後や、外傷や手術後などによく見られます。出血の範囲によっては、白目の部分がなくなってしまうほど目が真っ赤になってしまうこともあり、心配され慌てて来院される患者様も少なくありません。外傷や感染が絡んでいない限り、結膜下出血が原因で視力低下や失明に繋がることはほとんどなく、慌てずゆっくりと眼科を受診するようにしてください。
結膜下出血に対する明確な治療はなく、出血が自然に吸収されていくのを待つしかありません。血管が拡張して赤みが出ている場合(充血)は、原因治療や血管収縮剤などを用いることで赤みを改善することができますが、血管が切れてしまった場合(出血)は点眼で赤みを引かせることはできないのです。出血の多くは1-2週間かけて自然に吸収されていきます。ただし、心臓に持病があるなど、何らかの理由で抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)を内服している場合には、出血が完全に消退するまでに数ヶ月の期間を要する場合もあります。
結膜下出血は、基本的に緊急性はなく経過を診てよい疾患です。ただし、外傷などがきっかけとなっている場合には重篤な状態が隠れていることもあります(穿孔性眼外傷など)。また、日常生活で何度も結膜下出血を繰り返していたり、鼻血や、全身に身の覚えのない出血斑が多数ある場合には、出血しやすい全身性の疾患(貧血、白血病、紫斑病など)が隠れていることもあり、内科へご相談させていただくこともございます。
ウイルス性結膜炎(流行性角結膜炎や急性出血性結膜炎など)が原因で結膜下出血が起きることもあります。大量のメヤニや眼痛が生じている場合には、周囲への感染にも注意が必要です。
考えられる症状
感染性結膜炎(細菌性、ウイルス性)
アレルギー性結膜炎
ぶどう膜炎
急性緑内障発作
結膜下出血など
目が痛い(眼痛)
眼痛は、ゴロゴロするような異物感や刺すような痛みと表現されることの多い表面の痛みと、目の奥に痛みを感じる深部の痛みに分かれます。また、睫毛や瞼のトラブルも目の痛みとして表現されることがあり鑑別疾患は様々です。
目の表面の痛みは、結膜炎、ドライアイ、角膜の傷や感染症、異物の混入などが原因として多く見られます。また、睫毛内反などによる睫毛の接触によって、角膜の傷や感染症が生じている場合もあります。瞼の腫れがある場合、麦粒腫(ものもらい)や霰粒腫(痛みを伴う場合は化膿性霰粒腫)が頻度としては多い印象です。重症なものの中には、全身の感染症が関係する眼窩蜂窩織炎という緊急性が高い疾患のこともあります。瞼の熱感や発赤を伴う強い痛みがある場合には特に注意が必要です。
目の奥の強い痛みを感じる場合、ぶどう膜炎や視神経炎など、まずは怖い疾患の否定が大切です。特に視力低下や嘔吐を伴う場合には、緊急性が高い疾患である可能性が高く、一刻を争う診断が必要となります。また、頭痛を目の奥の痛みと表現する方もおり、原因精査としてCTやMRIも大切です。目の奥の痛みを感じた場合、単なる眼精疲労だと放置するのは危険な場合もあるのです。
考えられる症状
結膜炎
点状表層角膜炎(角膜感染症)
ドライアイ
角膜潰瘍(角膜感染症)
睫毛内反
麦粒腫
霰粒腫
眼精疲労
ぶどう膜炎
結膜異物、角膜炎、角膜異物、眼瞼炎、視神経炎頭痛頭蓋内病変など
メヤニがでる(眼脂)
全てのメヤニが必ずしも問題となるわけではありません。メヤニは涙の成分であるムチンというタンパク質が、眼表面の不要なもの(脱落した上皮、血液中の細胞、病原体など)を絡め取ることでできます。そのため、単にメヤニ=病気というわけではなく、メヤニの量や性質、目の所見などから原因を鑑別していく必要があります。
黄白色でネバネバとしたドロっとしたメヤニが出る場合には細菌性結膜炎を、サラサラとした透明なメヤニが出る場合にはウイルス性結膜炎を疑います。ウイルス性結膜炎の1つである流行性角結膜炎(はやり目)は、アデノウイルスが原因となり、非常に強い感染力を持つため、感染対策に注意が必要です。
透明から白色のメヤニが続く場合には、アレルギー性結膜炎やドライアイが原因となっている可能性が高く、アレルゲンに極力触れないようにする対策や、アレルギーに対する治療、涙の質を改善していくドライアイ治療が大切です。
普段とは明らかにメヤニの性質や量が異なる場合には、できるだけ早めに眼科を受診するよう心がけましょう。
考えられる症状
ゴロゴロする(異物感)
目の中にゴミが入ってしまったようなゴロゴロとした異物感を感じることがあります。もちろん、実際に結膜や角膜に異物が混入していることもありますが、角膜や結膜の炎症、ドライアイによる角膜上皮障害も異物感の原因となります。
異物として多いのは、作業中にゴーグルをしていなかったことによる鉄粉障害です。角膜に鉄粉が埋まり込んでしまうと、異物感や炎症の原因となるだけでなく、鉄イオンが時間をかけて徐々に悪さをしてくることもあり注意が必要です。角膜に鉄粉が埋まり込んでいる場合には、針や角膜ドリルという機械を使って綺麗に取り除く必要があります。鉄粉の飛んでくる勢いが強ければ、角膜を穿孔してしまう可能性もあり、普段から油断せずに目を守る努力が大切です。一瞬の油断で目を失い後悔しても遅いのです。
角膜や結膜の炎症は、細菌やウイルスによる感染性結膜炎だけでなく、アレルギー性結膜炎などの非感染性疾患も要因となります。最近ではコンタクトレンズによるトラブルも多く、ドライアイによる涙の安定性が悪い方や、角膜に傷を作りやすい環境がある方(睫毛内反など)、アレルギー症状が強い方は特に注意が必要です。コンタクトレンズはとても便利なものですが、使用法を間違え、管理を怠ってしまうと、健康な方であっても失明につながる重篤な疾患(アカントアメーバなど)を引き起こすこともあり危険です。
ゴロゴロとした異物感は目を守るための危険信号ともいえます。若いから大丈夫と、症状に気がつきながら放置してしまうと、思いもよらぬ重篤な疾患に進行し、取り返しのつかない状態になってしまう場合もあります。気になる症状がある時は、我慢せずすぐに相談するようにしてください。
考えられる症状
感染性結膜炎(細菌性、ウイルス性)
ドライアイ
アレルギー性結膜炎
睫毛内反
結膜異物、角膜異物、角膜炎、点状表層角膜炎、マイボーム腺機能不全、結膜弛緩症など
痒い(掻痒感)
目の痒みは、瞼の裏側の結膜(瞼結膜)と、白目の表面に存在する結膜(球結膜)が炎症を起こすことで生じます。その多くはアレルギー性結膜炎が原因といっても過言ではありません。アレルギーの原因には、ダニやハウスダストといった通年性のものと、花粉症のように時期によって症状が異なる季節性と呼ばれるものがあります。特に春先にかけて辛い症状が出るスギ花粉は、毎年多くの方々を悩ませ続けており、しっかりと予防と対策をしておきたいものです。
アレルギー性結膜炎の場合、何かのアレルゲン(アレルギーの原因物質)に反応して、瞼の裏に乳頭という凸凹した所見が出てくるようになります。我々眼科医は、こういった所見を顕微鏡で見ることでアレルギー性結膜炎の診断をしています。ただ、残念なことに、顕微鏡で瞼の裏側に形成された乳頭を見るだけでは、アレルギーの重症度はわかっても、何に反応したアレルギーであるか(アレルゲンが何であるか)を正確に知ることはできません。
アレルギーの治療は対症療法が中心です。そのため、いかに原因となるアレルゲンに触れずに済むかということも非常に大切なポイントになります。点眼や内服薬による治療を行っても症状がなかなか改善しない場合には、血液検査などを行い、アレルゲンを知っておくことも症状を和らげる対策として重要です。
アレルギー性結膜炎以外にも、細菌やウイルスによる結膜炎、ドライアイ、眼瞼炎といった病態で痒みの症状がでることもあります。アレルギー薬はしっかり使っているのに痒みが治らず、症状が長引く場合には、早めにご相談ください。
考えられる症状
アレルギー性結膜炎
感染性結膜炎(細菌性、ウイルス性)
ドライアイ
眼瞼炎など
涙が出る(流涙)
涙は涙腺で作られ、目の表面を潤し、涙道と呼ばれる排水溝から鼻の中へと流れていきます。涙が増える要因は大きく2つあり、涙腺で作られる涙の分泌自体が増加してしまう場合と、涙の排水溝が詰まってしまう場合とに分類されます。
涙の分泌が増加するものとしてドライアイがあります。涙が乾く病気であるはずなのに、涙が増えると聞くと不思議に思うかもしれません。これは目の表面が乾いてしまうことで、角膜の痛覚が刺激され、反射的に涙の分泌が刺激されるためです。涙の成分の中には、ムチンと呼ばれる白いメヤニの原因となる成分が含まれており、ドライアイによって涙の量が一時的に増えることで、メヤニが問題となることもあるのです。また、アレルギーや感染による結膜炎、睫毛による眼球への刺激なども、涙の分泌が増える原因となります。
涙の排水溝が詰まってしまうことも涙が増える原因です。先天性涙道閉塞のように、生まれつき排水溝が詰まってしまっていることもあり、赤ちゃんの頃より目頭のあたりで繰り返すメヤニを認める場合には注意が必要です。また、加齢による変化や、抗がん剤の使用によって、後天的に涙道が詰まってしまうこともあります。詰まり具合によっては、ブジーや手術といった処置が必要です。
考えられる症状
ドライアイ
アレルギー性結膜炎
感染性結膜炎(細菌性、ウイルス性)
睫毛内反
涙道狭窄、涙道閉鎖など
瞼が腫れる(眼瞼腫脹)
瞼が腫れる原因は、瞼が直接関係する病気だけではありません。瞼周囲の病気や、全身の病気が絡んでいる場合があります。
瞼が全体的に腫れているのでなく、局所的に腫れており、触るとしこりがある場合には、麦粒腫(ものもらい)や霰粒腫である可能性が高いです。それに対して、瞼が全体的に腫れている場合には、アレルギーが絡んでいることや、蕁麻疹の類であるクインケ浮腫(原因不明の血管性浮腫)といった病態を疑います。アレルギーであれば痒みを伴うことが多く、クインケ浮腫であれば痛みや痒みを伴わないのが特徴的です。クインケ浮腫の場合、原因ははっきりせず、明確な治療はありません。ストレスなどが誘因になることもあるようです。
緊急度が高いものとして、目の周囲や後方組織の感染症である眼窩蜂窩織炎があります。副鼻腔炎(鼻の周りの空洞に起こる感染症)や歯の病気などから、目に感染症を引き起こす重篤な疾患です。瞼が腫れ、赤みが強く、熱感があり、強い痛みを伴っている場合には、治療を急ぐ必要があります。放置してしまうと、失明だけでなく、脳へと感染症が広がることもあり非常に危険です。
瞼の腫れは、全身の病気がきっかけとなっていることもあります。瞼の腫れが長引いている場合や、瞼の腫れがだんだんと強くなってくる場合には、目以外の病気が関係している可能性も考える必要があります。全身精査をして思いもしなかった病気が見つかることもあるのです。
考えられる症状
麦粒腫
霰粒腫
アレルギー反応(アレルギー性結膜炎)
眼窩蜂窩織炎、帯状疱疹、全身性浮腫など
目が疲れやすい(眼精疲労)
目が疲れる状態を眼精疲労と呼びます。眼精疲労は目の疲れや重たい感じがするだけでなく、かすみや眩しさによる見えにくさ、痛みや充血、涙が出るなど、非常に様々な症状を引き起こします。中には肩こりや頭痛、めまい、吐き気など全身症状が出ることもあり厄介です。
単なるパソコンやスマートフォンの使いすぎということもありますが、眼鏡やコンタクトの度数があっていなかったり、白内障や緑内障など、他の目の病気が絡むことで眼精疲労を生じていることもあります。風邪や体調不良、精神的ストレスなど、全身の不調から眼精疲労を感じやすくなることも多く、広い視点で原因を探り、症状改善のための策を練っていく必要があります。
考えられる症状
屈折異常
ドライアイ
白内障
緑内障
VDT作業(パソコン、スマートフォン)
眼位異常(斜視、斜位)、眼瞼下垂など
急に視野が欠ける
景色が急に欠けて見えるようになったり、薄暗く見えるようになってしまった場合には、原因として緊急性の高い疾患が隠れていることが多く、一刻も早く眼科を受診していただく必要があります。
黒いゴミや糸くずのようなものが見えたり、何も光っていないところでピカピカと光ってみえるような症状をきっかけに、急に見えにくさが生じたり、徐々に見えない部分が広がってくるような症状が出た場合には、網膜剥離と呼ばれる疾患が強く疑われます。網膜の中心部である黄斑と呼ばれる部分まで網膜剥離が進行してしまうと、急激な視力低下の原因となるだけでなく、放置してしまえば失明にさえ至るリスクがあります。
高血圧、高脂血症、糖尿病などをお持ちの方で、動脈硬化が強く疑われる場合には、急に見えにくくなる原因として、糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などをきっかけに生じる硝子体出血が多くみられます。硝子体出血の量によっては、目の中に墨を流したようだと表現される方もいらっしゃいます。出血の原因となっている基礎疾患の治療はもちろんのこと、出血に紛れた網膜剥離などの緊急性疾患を見逃さないことが大切です。
動脈硬化や不整脈がある方の中には、網膜の動脈に血栓が詰まってしまうこともあります。網膜動脈閉塞症では、急激な網膜の血流不全が起きてしまうため、数時間以内に治療を開始しなくてはならず、最も緊急度の高い眼科疾患の1つです。
考えられる症状
徐々に視野が欠ける
ふとした際に見えにくい部分があることに気がついたものの、いつから症状があったのかわからないという場合です。人間の目は2つあるため、片方の目が見えていなくても、もう片方の目がカバーしてしまうことでなかなか症状に気がつけないことがあります。何かをきっかけに片目で見る機会があり、片方の目が見えにくいことにたまたま気がついたと受診される患者様も少なくありません。
緑内障は初期には自覚症状が現れず、検診などで指摘されて初めて認識される方も多い疾患です。ですが、40歳以上の20人に1人は緑内障であるともいわれており、決して他人事ではありません。検診で緑内障(または視神経乳頭陥凹拡大)を指摘された際、自覚症状がないからといって流してしまうのではなく、早期発見を行い、視野欠損の進行を抑えてあげることが大切です。
網膜剥離を周辺部で生じた場合も症状になかなか気がつけないことがあります。飛蚊症や光視症が気になっている場合や、外傷後など、両目でなんとなく生活を送るのではなく、網膜が剥がれているかもしれないと疑念を持ち、片目ずつの見え方を意識して比べておくことが早期発見に繋がります。
網膜色素変性症も徐々に視野欠損を生じる疾患の1つです。暗いところで見えにくさを感じる夜盲(鳥目)が特徴的な遺伝性疾患で、重症度や進行度には差がありますが、家族歴がある場合は眼底検査を受けておくと良いでしょう。
頭蓋内の病変が視神経を徐々に圧迫することで、視野欠損を生じることもあります。脳腫瘍など命に関係することもあり、早期発見がより重要となるため注意が必要です。
考えられる症状
黒いゴミや糸くずが見える(飛蚊症)
黒いゴミや糸くずのようなものが見える状態を飛蚊症と呼びます。その多くは、目の中に存在する硝子体と呼ばれるゼリー状の物質が、歳を重ねるごとに変化していくことが原因です。
目を動かすと黒いゴミや糸くずのようなものも一緒になって動くため、鬱陶しく感じられることが多い疾患ですが、ほとんどの場合で治療することはありません。施設によっては、目の中のゼリーを全て取り除く手術や、硝子体の濁りをレーザー治療でやっつけるといった治療をする場合もありますが、手術によって人工的な網膜剥離をつくる危険があったり、レーザー加療の対象となる飛蚊症に条件や制限があったりと良いことばかりではありません。医師からよく治療の説明を受け、リスクを含め納得してから行っていただく必要があります。
後部硝子体剥離の進行や、人間の脳が上手く処理をしてくれることで、飛蚊症の見え方はだんだんと慣れてくることがほとんどです。ただし、原因が目の中から無くなっているわけではなく、意識して探せば飛蚊症は再度姿を現します。病態を理解し、飛蚊症とうまくお付き合いしていくことが大切です。
飛蚊症と呼ばれる症状が急に増悪した場合は注意が必要です。目の中の硝子体が網膜を引っ張ることで孔をあけてしまったり(網膜剥離)、網膜を引っ張ることによって血管から出血を起こしてしまう(硝子体出血)といったトラブルを生じた可能性があるからです。初めて自覚する飛蚊症や、飛蚊症の数が急激に増えてしまった場合には、できるだけ早く眼科を受診するようにしてください。
考えられる症状
チカチカする、光って見える(光視症)
眩しい(羞明感)
普通の明るさでも眩しさを感じ、目をあけていられないような状態を羞明と呼びます。羞明を感じる原因は、痛みを伴っている場合と、伴わない場合とで大きく2つに分類されます。
痛みを伴う場合には、コンタクトレンズやドライアイなどによる角膜の傷や角膜感染症が原因となることがあります。人間は光の屈折を使って物を見ていますが、角膜の表面に傷があることで、光の屈折がうまくいかなくなり、光が乱反射してしまうことで眩しさを自覚するようになります。また、痛みを伴う重篤なものとして、緑内障で眼圧が急激に上昇してしまっている場合(虹視症といって光の輪が見えることもあります)や、ぶどう膜炎による炎症が原因となっている場合もあり注意が必要です。
痛みを伴わない場合、ご年齢によっては、眩しさを感じやすそうな白内障が出ていないかを確認をしておく必要があります。また、眼瞼痙攣、黄斑の変性や萎縮、瞳孔に入る光量の調節障害(動眼神経麻痺など)なども、眩しさに繋がる要因です。
考えられる症状
白内障
緑内障
ぶどう膜炎
角膜感染症
角膜上皮びらん(角膜感染症)
ドライアイ
眼瞼痙攣
点状表層角膜炎、黄斑変性、黄斑萎縮、動眼神経麻痺など
歪んで見える(変視症)
真っ直ぐの線を見た時、歪んで見えたり、くびれて見えたり、見ようとする部分が潰れて見えるような状態を変視症と呼びます。その多くは、物を見るために重要な黄斑(網膜の中心部)と呼ばれる部分に何かしらのトラブルが生じていることが原因です。
加齢に伴う変化として生じる黄斑変性や、黄斑部に膜が形成されることで皺がよってしまう黄斑上膜、黄斑部に孔が空いてしまう黄斑円孔、網膜が剥がれてしまう網膜剥離など、変視症を生じる疾患は様々です。
これらの疾患に対する手術は、網膜を元通りにすることが目的です。ただ、一度剥がれてしまったり、皺や孔があいてしまった網膜を元通りに伸ばし、以前の位置に戻そうとしても、ピッタリと同じ場所に寸分の狂いなく戻すことはできません。症状が出現してからの時間が経過すればするほど、変化した黄斑部の構造は戻りにくくなります。目の違和感を感じた際は、なるべく早く眼科医の診察を受けることが大切です。
考えられる症状
物が二重、三重に見える(複視)
物が二重に見える場合、鑑別をしていく上で大切なポイントがあります。それは、片目だけで見ても二重に見えてしまう単眼性複視であるか、両目で見た時に二重に見える両眼性複視であるかを見分けることです。
単眼性複視が生じる原因の多くは、白内障や乱視が関係しています。そのため、白内障手術や乱視の矯正によって解決することがほとんどです。それに対して両眼性複視は、斜視や眼球運動障害などによる目の位置のズレが原因となることが多く、治療は難渋することが予想されます。
人間の目は右目で見た像と左目で見た像を頭の中で1つの像として捉える(融像)ことで遠近感や立体感を感じています。ところが、斜視や眼球運動障害によって、それぞれの目で認識した像に差がありすぎてしまうと、頭の中で1つに融像することができなくなり、複視が生じてしまうのです。
急に両眼性複視を生じた場合には、脳や神経の異常が関係していることもあります。まず第1に、脳梗塞、脳動脈瘤、脳腫瘍といった緊急性の高い疾患の否定のため、MRIやCTによる頭蓋内精査が必要です。また、糖尿病による神経障害や甲状腺疾患などでも複視が生じることがあり、内科的な疾患を見逃さないようにすることも大切です。
交通事故や外傷による骨折でも眼球運動障害が生じることがあります。中でも、目の筋肉や神経が、折れた骨に挟まれて嵌頓している場合(閉鎖型骨折)には、緊急性が非常に高く注意が必要です。外傷後、目をスムーズに動かせず、吐き気を伴うような痛みがある場合には注意が必要です。